【エラリー・クイーン】エジプト十字架の謎 レビュー/感想



エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)



エジプト十字架の謎 (創元推理文庫)



■あらすじ・内容
ウェスト・ヴァージニアの田舎町アロヨで発生した殺人事件は、不気味なTに満ちていた。
死体発見現場はT字路。T字形の道標にはりつけにされた、
首なし死体の外貌もT。アロヨへ趣いたエラリーだったが、真相は不明のまま。
そして半年後、類似の奇怪な殺人事件を知らせる恩師からの電報がエラリーのもとへ届いた…。
スリリングな犯人追跡劇も名高き、本格ミステリの金字塔。

■レビュー(ネタバレなし)
推理作家エラリー・クイーンの長編推理小説
『エジプト十字架の謎』(エジプト十字架の秘密)
国名シリーズの第5作。1932年に刊行。

エラリー・クイーンの作品を読むのは、
『Xの悲劇』、『Yの悲劇』に続いて3作目であり、
国名シリーズについては、初めてだったが特に問題はなかった。

比較的古い小説のためか、他の推理小説を読んできた読者にとっては、
犯人の特定は容易だろう。
そのため、犯人探しについては物足りなさを感じるかもしれない。
しかし、エラリーの推理に驚かされることは非常に多い。
決して損な作品ではない。

尚、私が読んだのは、1959年に創元推理文庫から出版されている
井上勇訳のもので、比較的古いものだった。
現在は、新しい日本語訳のものが出ているので、
これから読みたいと考えている人はこちらをお勧めする。



=======下記ネタバレ注意=========


■レビュー(ネタバレあり)

『エジプト十字架の謎』という、いかにもエジプトが関係しているような
タイトルだが、本作はアメリカで発生した連続殺人事件であり、
エジプトは全く関係がない。タイトル詐欺にもほどがある。
特に、私が読んだ1959年に創元推理文庫から発行されたものは、
タイトルだけではなく背景もピラミッドやラクダなども描かれており、
読者の勘違いを助長している。
どうやら、エラリーの国名シリーズは他の作品も同様のようだ。
読む前から、すっかり騙されてしまった。

肝心の内容だが、犯人であるアンドルー・ヴァンを特定するのはたやすい。

重要なのは、ツヴァール兄弟とクロサックの関係について誰が知っていたのかということだ。
ツヴァール兄弟は身を隠すため、国籍や名前も改め、ヴァン、ブラッド、メガラと名乗った。
そしてこのことは、警察に話すまで誰にも話したことがないという。
そうなると、犯人は3兄弟にクロサックを含めた4人以外にはあり得ないということになる。

次に重要なのは、ブラッド及びメガラが殺害された時の状況だ。
特に、メガラについては、殺される直前、よほど殺されない自信があったように見える。
それにも関わらず、あっさり殺されてしまったことを見ると、
犯人は、信頼のおける人物であったことが推測できる。
クロサックについては、3兄弟の誰も顔を知らないというアドバンテージがあるものの
犯人が自分を狙ってくることが分かっている状況の中で、心を許すとは考えにくい。
となると、相手は信頼がおかれている3兄弟の誰かだったと推測できる。

さらに注目したいのが、死体は全て首を切断されており、
首は見つかっていなかったということだ。
典型的な顔のない殺人そのもので、犯人と被害者が入れ替わっている。
では、犯人は誰だろうか。
3兄弟の中でもメガラは航海に出ており、殺人を行うのは物理的に不可能だ。
一人旅ではなく、船長がいたことも犯人ではないことを裏付けている。
ではヴァンはどうだろうか。
ヴァンはクロサックから逃れるため、ピート老人としても生活していた。
変装の技術はとても高く、誰も見破ることはできなかった。
これほど、犯人にふさわしい人物はいるだろか。
エアリーの推理とは違うものの犯人は想定通りだった。

エアリーの推理で驚いたのはヨードチンキの推理だ。
何故犯人は、ラベルの貼っていない瓶の中身がヨードチンキであると知っていたのか。
それは、小屋について隅々まで知っている人物であった故にほかならない。
単純だが、非常に見落としやすい。これにははっとさせられた。



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